TwitterやInstagram、Facebookなど、多くの企業がソーシャルメディアをデジタルマーケティング戦略に利用しています。コロナ禍にあって、イベントや店舗におけるプロモーションが減り、おうち時間の増加によってSNSの利用が活発になり、その重要性はさらに増しました。ウィズコロナ・アフターコロナに向け、すでに戦略や運用を見直し、投資拡大する傾向もみられます。
しかし一方で、いまだ「個人でSNSを使っている」というだけで、知識もない企業SNS担当者を任じ、リスクマネジメントなど企業側の体制も整えず、結果を解析もせず放置してしまっている会社も少なくありません。
企業SNSを導入・運用するためには、知識を得て計画的に実行する必要があります。インターネットや書籍で学ぶのもよいでしょう。先日お伝えしたようにSNSの基礎知識を学ぶ講座・資格、SNS運用管理者を養成する講座・資格を利用するのもひとつの方法です。
そして、現場で運用されている方々が、何を考えどのように行動しているのか、さまざまな事例にふれることも重要だと私たちは考えています。そこで今回からさまざまな方に、業種・商材・利用しているメディアなどの垣根をこえて、お話を伺っていきます。ぜひ皆様の企業SNS導入・運用にお役立てください。
目次
ウェブ解析士協会理事 ブランディング部 井水大輔(いみずだいすけ)さん
記念すべき第1回は、ウェブ解析士協会の理事でありブランディング部として、協会のSNS運用企画を行っている井水大輔さんにお話を伺います。ウェブマーケター・ウェブ解析士マスターとして、Webコンテンツ制作・運用コンサルティングなどを中心に、多くの企業でWeb戦略を実行支援。Webマーケティングの人材育成にも貢献されています。
今回は、企業SNS初心者の方に向け、ウェブ解析士協会のSNS運用をテーマとして取り上げています。優しく穏やかな人柄で、分かりやすい言葉を選んで回答してくださったお話は、特に今から企業SNSの見直しを考えている方に、有意義となるでしょう。
目的はあくまで「コミュニティを盛り上げること」
--SNSを運用している目的は何ですか?
現時点でSNSの運用目的は、ウェブ解析士協会の認知活動とエンゲージメント(反応)を高めることにあります。ウェブ解析士協会はコミュニティなので、エンゲージメントは、情報発信やコミュニケーションによって「会員がみずから協会にどんどん関わり、協会の活動が盛り上がること」に定めました。またソーシャルリスニング(ソーシャルメディア上の声を収集・分析すること)によって、会員の意見を吸い上げたいとも考えています。もちろんその先には「講座を申し込んで欲しい」という希望があるわけですが、その点に対しては無理に数値目標を掲げず、コミュニティを重視しています。
ウェブ解析士を中心に輪を広げていくイメージ
--対象ユーザーはどのように設定されていますか?
メインターゲットはやはりウェブ解析士です。協会の会員さんを中心として、ウェブに関わる人・同業者やウェブマーケティングを活用される人へと広がり、さらにウェブ解析士のお客さんや、ウェブ解析を活用したい中小企業の方々へと広がっていくイメージを抱いています。
マイナスブランディングからの脱却
--運用されているソーシャルメディアを教えてください
アカウント自体はTwitter・Instagram・Facebook・YouTube・LinkedInがありますが、アクティブに運用しているものとそうでないものの差が激しいというのが現状です。ウェブ解析士協会という性質上、メディアを選ぶというより、いろんな担当者がとりあえず作っていろいろやってみるけど、さまざまな理由で運用されなくなったものがあるという感じですね。
私がブランディング部を任されたのが、ちょうど1年前。そこから一番アクティブに変わったのがTwitterです。
私が担当した時点で、Twitter開設からだいたい8年が経過、フォロワー数は1,976でした。1年経過して現在は3,805。約2倍、8年分を1年で集めた計算になります。
ウェブ解析士協会のアカウントなので、今までの担当者はどうしても、新しい機能を実験したりデータをとったりすることがメインになってしまっていたのだと思います。
でもそれは私からすると「それって運用じゃないよね、なんならマイナスブランディングじゃないか」と。なので、私がブランディングを任せてもらえることになったときに、まずは一番気になっていたTwitterから力を入れることにしました。アクティブさを変えることによって、フォロワー数が増えたわけです。
一番変化をだせるものにリソースを集中
--Twitterを選んだ理由と、その他のSNSを選ばなかった理由は何ですか?
SNSの講座などではよく「この目的で、この対象ユーザーなら、このメディアだよね」といった選び方を紹介します。でも今回、私が全体を企画するにあたって重視したのは、先ほどお話したように「Twitterを今のまま置いておきたくない」という点でした。現状を考えたとき、かけるリソースに対して一番変化を出せるメディアでもあったことからTwitterに力を入れました。
Facebookについては、既に有効活用されていて、フォロワー数も一番多いメディアでした。オーガニック運用(無料でできるプロモーション)が難しくなってきていたことに加え、新しい人員や企画を入れてもあまり大きな変化が見込めない状況だと判断。公式のアカウントをがんばって運用するより「各個人がグループやメッセンジャーでコミュニケーションをとるために使う」という位置づけにしたいと考えました。
Instagramは最近新チームが頑張っていますが、YouTube・LinkedInについては、運用担当者がいなかったので戦略的に活用できていませんでした。ウェブ解析士のビジネスモデルを考えると、YouTubeによるコミュニケーションの活性化が難しいのではないかと思ったのも大きな要因です。
ウェブ解析士をターゲットにエンゲージや認知度を高めることを考えたとき、ベースとなるのは、コミュニケーションです。Twitterのほうが言語を主体としているのでコミュニケーションをとりやすいと考えています。
とるべきアクションをとり、ネガティブな意見をゼロにする
--KPI(実現可能な明確化された目標)はどのように設定しましたか?
チームとして共有したKPIは、何かを達成しようといった数値ではなく「アクションがとれること」に設定しています。協会という性質上、チームが半ボランティアで運用しているので、モチベーションを下げたくないんです。
ツイート数の質と量を確保し、ソーシャルリスニングで吸い上げた内容について反応したり、事務局や他の部署にサポートを依頼するなど「とるべきアクションをやりきること」に絞りました。
また以前はソーシャルリスニングしたところ「意味不明なツイートがある」「こういうツイートはウェブ解析士として恥ずかしい」といった意見があったんです。ビジネスに対するクレームではありませんが、このようなネガティブな意見は、運用者のモチベーションを下げます。SNSマネージャー養成講座を始めるタイミングでもあり、フラットな状態にしておきたいという考えもありました。そこで「関係者からのアカウント運用におけるネガティブな意見をゼロにする」ことも、KPIに設定しました。
認知やエンゲージを高めるためのKPIとしては、「名前やプロフィールに、ウェブ解析士を入れてもらう」ことを設定し、一番力を入れました。
例えばどんなによいコンテンツを用意して積極的に発信しても、リーチできる層は限られますよね。最終的な対象である「ウェブ解析士のお客さんや、ウェブ解析を活用したい中小企業の方々」まで情報を届けるのは難しいでしょう。
しかし現在1万人ぐらいいるウェブ解析士が、情報発信してくれれば一気にリーチが広がります。わざわざ「私はウェブ解析士です」と言わなくても名前の横に「ウェブ解析士」と書いてあれば、その人がどんなツイートしても表示されます。名前の横のハードルが高ければ、プロフィールでもよいわけです。その方を通じて認知は広がっていきます。
コミュニティを強化することにより、自発的な行動を促した
--面白いですね。しかしそれは実現可能な目標といえるのでしょうか?
これもチームに対して数値目標は定めていません。しかし1年前は30~40しかなかったアカウントが、現在は127まで伸びています。
一応誤解のないように付け加えると、自分の中には数値目標はあります。ただそれをチームで掲げるとどうしてもコミュニケーションが営業ぽくなると感じるので目標に大きな乖離が出そうなときのみ対策を考えます。
量と質の両面から、ウェブ解析士もしくはそれを目指す人とのコミュニティを強化することで、「書いて欲しい」と頼むのではなく、自発的に書いてもらえればいいなと思いました。
量を増やすためには、ウェブ解析士のアカウントだと分かっている場合「いいね」を押しています。名前やプロフィールに書いていない場合も、話の内容や会話の流れを積極的に解読して、リストに登録するようにがんばっています。
質をあげるためには、試験合格者への対応を行いました。「ウェブ解析士 合格」で検索し、合格したことをツイートしている人には、「いいね」だけでなく、協会としてのコメントを入れています。
本人が喜ぶというのはもちろんなのですが、コメントを入れることによってウェブ解析士協会をフォローしているウェブ解析士のタイムラインに表示されやすくなる。するとその方たちが「いいね」を押してくれるので、合格したことによる成功体験が増す。コメントを入れてくれる方もいるので、それが新しいコミュニケーションの呼び水となる。
協会の公式アカウントをハブとしてできたコミュニケーションの中で、「こんな風に名前に入れればいいんだ」と気づき、名前の横やプロフィールに自発的に入れてくれる人が増えているのです。
ツイートは量と質の両面から確保する
--運用方針や投稿頻度はどのように決めたのでしょうか
SNSの講座では「ツイート数が多いほうが多くの人に気づいてもらえる」ということでツイート数の確保を指導します。もちろんその意図もあるのですが、実は当時の組織上、いろんな部署の方が自由に同じアカウントを使っていて「文脈もなく、意味不明なツイートがある」という問題を抱えていました。そのままでは何をやっている協会なのか分からなくなってしまいます。
そこで「目立たないように埋もれさせてしまおう」と考え、1日7ツイート程度を確保することにしました。イベント情報などが1日2ツイート弱あるため、残りの5ツイートをウェブ解析士のノウハウを紹介する内容とし、量と質の両面から充実させたのです。これにより「こういうことをやっている協会ですよ」と分かりやすく、ガラリとイメージも変えることに成功しました。
ツイートの量を増やすために、公式テキストを利用
私はウェブ解析士協会の強みは、公式テキスト『ウェブ解析士認定試験公式テキスト』だと思っています。ウェブ解析について体系的にまとめられた分厚いテキストですが、それが全然ひろめられていない。そこで、このテキストを切り取って「#ウェブ解析士の知恵袋」というハッシュタグを付け、1日3ツイートする。まずは、この方法で量を稼ぐことにしました。
ツイートの質をあげるために、参考にしていたアカウントの持ち主に依頼
テキストからツイートを作る方法は良いのですが、どうしても固くなってしまいます。私は「本当に役立つ」という意味で、ウェブ解析士である平岡謙一さんのTwitterを参考にしたいと考えていました。しかし参考にするくらいなら、平岡さんにアドバイスいただけないかと考えました。そしたら快諾いただけたので「Google アナリティクスを中心としたWebマーケティングですぐ使えるようなノウハウについて1日2ツイート『#解析士のGA』というハッシュタグを付けて投稿」を行い、質を確保することができました。
プロフィールには、どんな協会のアカウントで、どんな役にたつのか記載
当時のプロフィールは「中の人がツイートしています」といった内容でした。これも何をやっている協会なのか分からなくなる要因の一つです。そこで「どんなスキルが身に付くのか」「フォローしてくれたらどんなメリットがあるのか」など、どんな協会のアカウントなのか分かる内容に変更しました。
今年はキャンペーンなどをからめて裾野を広げたい
--今後の展開について教えてください
今まではオーガニック運用を中心としてきました。確かに大きく変わったとは思いますが、近い層にしか届いていません。今後はキャンペーンなどをからめて対象を広げていこうという話はでています。
もちろん本当にいいコンテンツを生み出していたら、良い結果が得られるのですが、もっと何かきっかけを与えることを考えられればいいなと思っています。
企業SNSを始める方へのアドバイス
――企業SNSを始める人にアドバイスをいただけますか?
Twitterは、何をつぶやけばよいですか?
ただツイートしても意味ないかなと。自分がいいたいことではなく、相手がききたいことを考えましょう。日々のお客さまとのやりとりから、ネタを探しみてはいかがでしょうか。既存のお客さんからの質問は、将来のお客さんが疑問に思う点でもあります。
SNS投稿頻度はどのくらいが適切ですか?
ユーザーが満足する頻度を探しましょう。満足を定量評価すると「エンゲージメント総数が増えている」に集約されます。投稿頻度を増やしてエンゲージメントが増えていればやればいいし、頭打ちになるならそれ以上の頻度はうっとうしいということです。
とはいえ「1日10回やりましょう」といっても、忙しいウェブ担当者にはできないんです。だから目標回数ではなく、忙しくても継続できるような最低ラインをつくることが大切です。
- 1日1tweet
- 1週間に1回のGMB投稿
- 月に1回のブログ投稿
SNSのネタはどう探せばいいですか?
お客さまとのやり取りの中に、ネタは眠っています。よくある質問や日々のやりとりを切り取ってネタにすればいいなと。
大切なのは、日々の業務フロー上にあるネタを拾うだけ、そんな視点です。頑張らなくても運用できるので継続できます。
インタビューを終えて~モチベーション×量と質×継続~
インタビューを終えて、印象に強く残ったのは、「モチベーション」「量と質」「継続」でした。SNSを運用する人のモチベーション、ウェブ解析士や試験に挑んでいる方のモチベーション、どちらも下げないように気遣いつつ、無理のないKPIを設定し、量と質のバランスを保ちながら、やれることを継続する。限りあるリソースの中でメディアを絞り、よりよい結果を得る。それがまた次のモチベーションにつながっていく。
簡単にみえて、非常に難しい課題です。発想の転換やアイデアが必要でしょう。しかしそれだけに、企業SNSの導入や見直しを行ううえで、非常に参考になるのではないかと思います。焦って数値目標をただ押し付けるのではなく、発想の転換やアイデアで、無理のない運用を探してみてはいかがでしょうか。
プロフィール~井水大輔~
1982年生 大阪府出身
ウェブマーケター/ウェブ解析士/チーフSNSマネージャー
株式会社S-FACTORY(エスファクトリー)代表
一般社団法人ウェブ解析士協会 理事
LinkedInラーニングインストラクター
デジタルハリウッド STUDIO横浜講師
Communications and Media major, Strategic Communications specialization
https://www.sfactory.co.jp
https://twitter.com/ImiDai
主な著書・寄稿
『コンバージョンを上げるWebデザイ改善集』
『Googleオプティマイズによるウェブテストの教科書』 など
受賞歴
2019年「CSS Nite ベストスピーカー(次点)」
2016、2018、2019年「ウェブ解析士アワード」アンドメディア
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